最終面接直前の転勤辞令

 二次面接の感触は悪くなかったので、一次面接のときのようにすぐにでも選考通過の連絡があるだろうと予想していました。ところが、1週間を過ぎても連絡は無く、転職エージェントからは先方に確認するので少し待つように言われました。しかしその後も待てど暮らせど連絡は無く、日々焦りと不安が募っていきます。
 二次面接から3週間ほど経ち、もう駄目かなとあきらめかけていたある日の夜、携帯電話が鳴りました。転職エージェントからの連絡かと思って急いで電話に出ると、電話の声は前職で信頼していた別部署の先輩Sさんでした。その電話で私は、前職の上級管理職間で共有されている「異動候補者リスト」というものに私の名前が載ったことを知りました。「異動候補者リスト」とは要するに「放出者リスト」のことで、他部署から希望があればいつでも異動させることができる、いま所属している部署で必要無いと判断されている社員のリストです。

 私がその「放出者リスト」に載せられたのは当時の上司から嫌われていたからですが、そこに至るきっかけとなった出来事が二つありました。
 
 一つはもともとその上司が担当していて長年赤字を垂れ流し続けていたビジネスを、私が担当を引き継いでから終了させたこと。客先はサプライヤーの供給責任を強く求め、私に何度も罵声を浴びせましたが、苦労の末、何とか撤退することに成功しました。会社の利益ということを考えるとむしろ褒められるべき話なのですが、利益よりも客先から嫌われないことのほうが大事な上司からすると問題行動だったのでしょう。
 
 もう一つは、当時同じチームにいた女性社員と取引先のトラブルです。その女性社員は新卒入社2年目くらいで若く、当時まだ珍しかった女性の営業担当、ということで取引先の男性担当者から下に見られており、たびたび嫌がらせを受けていました。チームリーダーはそのことを知っていましたが、面倒なので見て見ぬふりをしていました。私はチームリーダーに許可を取ったうえでその取引先担当者を呼びつけて謝罪させ、今後二度と嫌がらせしないことを約束させました。ところがこのことも、業界でできるだけ波風を立てたくない上司からは問題行動と見なされました。


 私の名前が「放出者リスト」に載ったことを知らせてくれた先輩Sさんは、自分が所属する部署に来て一緒に働かないかと言ってくれました。私は感謝の気持ちを伝えたうえで、現在転職活動中であること、そして異動日までにもし転職が決まった場合、会社を辞めることになると正直に話しました。Sさんはそれでも全然構わない、むしろ転職活動を応援している、ダメだった時だけ来れば良い、と言ってくれました。
 
 それからしばらく経ったある日、私は上司に呼ばれ正式に異動の内示を受けました。異動の理由として、「社内外で人と衝突することが多く、協調性が無い。」というようなことを言われました。新卒入社3年目に営業部へ異動して以来15年間ずっと同じ仕事をしてきましたが、その間に立ち上げた新しいビジネスや、上司が作った赤字ビジネスの後始末は一切評価されず、追い出されてしまったのです。
 勤務地も変わり単身赴任になるので、転勤の準備を始めなければなりませんでした。
 
 

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