退職願い

 オファーレターを受諾した私は、信頼する別部署の先輩Sさんへすぐに連絡し、採用が決まったことを伝えました。Sさんは我がことのように喜び、私の新しい挑戦を応援してくれました。
 数日後、チームリーダーを通じて上司に退職の意向を伝えました。退職理由を聞かれた私は、「今回の異動理由を聞いて、自分が会社に必要とされていないと思った。」と言いました。上司は慌ててこれを否定し、とりあえず意向は分かったが、まだ退職を認めたわけでは無い、と訳の分からないことを言いました。自分のせいで私が辞めたことになると、自分の立場が悪くなると思ったのでしょう。前職の会社は人の出入りが少なく、年功序列の強い日本企業ですので、管理職を目前にした社員が自ら退職することはほぼありえないことでした。

 それからしばらくして、私の退職が社内で発表されました。41歳の社員の依願退職に、周囲は例外なく驚いていました。そのなかでも一番ショックを受けていたのは、取引先男性社員から嫌がらせを受けていた例の女性社員でした。彼女は私が辞めた後しばらくして退職しました。

 数日後、入社以来15年ほど一緒に仕事をしてきた後輩社員と二人で居酒屋に行きました。彼とは長年にわたり一緒にいくつもの新しいビジネスを作ってきました。彼は、「これから自分はどうすればいいのか分かりません…」と人目もはばからず号泣しました。私はかける言葉が見つかりませんでした。

 退職後先輩のSさんから聞いた話ですが、前職の現場レベルでは「一番売っていた人を競合メーカーに取られて、なぜ誰も退職を止めなかったんだろう?」と言ってくれた人もいたようです。一方で上級管理職のなかでは「彼はいろいろ問題があったので、退職してもらって良かった。」というような話になっているようでした。自分に火の粉が降りかからないように、元上司がそのように社内で説明したのでしょう。もはや私にはどうでも良い話でしたが、辞めて良かったと心から思いました。
 

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