早期退職プログラム

入社してしばらく経ったある日、私が所属する部署の全員に招集がかかりました。当時私は外資系の文化に対応することに必死で、そのミーティングがどんなものなのか事前にまったく見当はつきませんでした。ミーティングの冒頭に事業部長が「これからERPをやることになった」と発言しましたが、私は意味が分かりませんでした。私が事の重大さに気付いたのは、ERPがEarly Retirement Programの略であると知った時でした。入社して半年も立たないのに、退職勧告を受ける可能性が出てきたのです。
各部署の管理職には、それぞれ何人の社員を辞めさせないといけないかノルマが与えられますので、まず部下を一人一人会議室に呼んで、面談をおこないます。私は面談で直属の上司から、「この会社でこれからも働き続けたいですか?」と聞かれ、思わずのけぞりました。まさか入社して半年も経たないうちにこんなことを言われるとは、想像もしていませんでした。私は早期退職に応募しない意思を伝え、幸運にも、その後退職勧告を受けることはありませんでした。
一方で、私より2か月ほど前に入社した20代の男性が、不幸にもターゲットになっていました。彼は何度も何度も直属の上司と事業部長から会議室に呼ばれ、激しく肩を叩き続けられました。彼がターゲットになった理由は二つあり、一つは入社早々難しい顧客の担当になり、たまたま大きなクレームが発生したことです。右も左も分からないなかで周りから充分なサポートも無く、うまく対応できませんでした。もう一つは入社後半年しか経っておらず、社内にコネクションがほとんど無かったことです。
肩を叩く側も人間ですので、長年一緒に働いてきて情が移っている部下を辞めさせるのは心苦しいのです。結果的に各部署内で新しく入ってきた社員が退職者候補にされることがあります。その点私は彼よりも更に社歴が浅いので、退職勧告を受ける可能性は十分にありました。しかし入社後担当のビジネスで大きな問題が起きていなかったこともあり、難を逃れました。
彼は3か月ほどずっと肩を叩き続けられ、最後には気力を失い、退職勧告に応じました。その上司と事業部長はノルマを達成したことで、自分たちのポジションを守りました。一部始終を横で見ていた私は、今まで以上に気を引き締めました。そしてこの弱肉強食の世界で戦う覚悟を決めました。